湯守の仕事

被災地に温泉をデリバリーする 峩々温泉六代目、竹内君(2011年撮影)

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今日は 2021年12月11日です。

◆湯守の仕事

 いまから25年も前の話になりますが、前職時代に温浴チームを創設した時に、竹内宏之君というチームメンバーがいました。彼の実家は宮城県の蔵王にある秘湯の一軒宿、峩々温泉。いずれは実家の後継ぎとなる立場で、修業のために経営コンサルタント会社に就職したのです。

峩々温泉は開湯から150年もの歴史ある温泉ですが、いずれ旅館の六代目になることが決まっている自分の運命に少し反発心も持っているような若者でした。

当時私は30代、竹内君はまだ20代でしたが、職場で彼が「実家では毎日温泉に手を合わせていた」と言っていたことを思い出しました。その時は、「源泉かけ流しでやっている温泉旅館なんだから、温泉が枯渇したら商売にならない。そりゃ感謝もするだろう」くらいに聞き流していました。

そんな軽い意味ではなかったということを知ったのは、彼が実家に戻って数年が経ち、東日本大震災が起きた2011年のことです。当時の彼のブログにこんなくだりがあります。

──この度の震災により、峩々温泉は休館を余儀なくされ良質の温泉水は川に流れているだけです。

これほど体に良い温泉が、ただ湧いては流れ湧いては流れ。

150年前に発見された時から休まず自噴しては、旅人を癒してきました。

自信を持って管理しております温泉を今はただ捨てているだけなのです。

湯守といたしましたら、こんなに辛い事はございません。──

「峩々温泉 六代目のひとりごと」 https://gagaonsen.exblog.jp/15766292/

この記事は、休館中でも被災した地域に対して何かできないか、そしてスタッフの雇用を守るためにも、ということで始めた通販事業の紹介文です。今回のコロナ禍で通販を始めた温浴施設の先駆けのような取り組みでしたが、そこで語られている温泉への想いは、商売させてもらっていることへの感謝ではなく、無駄に捨ててしまっていることへの自責の念。

温泉事業とは大地の恵みが主体であり、自分はそれを守りながら提供する役割。それが果たせていないことが辛い。竹内君がそう綴った気持ちが今はよく分かります。

その源泉は、太古の雨や海水が地熱で温められ、悠久の時を経て湧いているもので、人が作り出せるようなものではありません。その温度も泉質も、地球の恵みそのものなのです。

少し前のメルマガで「弊社が提供するノウハウは、私が発明したり創作したものではありません。温浴の歴史の中で、先人たちが苦しみや失敗を重ねながら作り上げてきた知恵と工夫の結晶を託されていると思っています。」と書きましたが、コンサルタントにとっての情報は、温泉旅館にとっての源泉と同じ。

考えてみれば、私たちの身の回りにあるものは、自分ひとりの力で作り出したものなどひとつもありません。すべて元々は地球の恵みであり、長い時間と多くの人が関わって今そこに存在しているのです。

例えばサウナベンチによく使われているのは、アラスカ産のスプルース材。滑らかな美しい木目で加工しやすく寸法安定性が高い。建材だけでなく楽器などにも使われる上質な木材です。何十年何百年もの樹齢の木を切り倒し、北米から日本まで船で運ばれてきます。そして製材され、サウナベンチとして組み立てられます。

サウナストーブの上に載っているのは香花石。フィンランド産で…

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