再び温泉ブームを起こすために(2)

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今日は 2021年10月27日です。

再び温泉ブームを起こすために(2)

 「温泉の純化」と言っても、源泉かけ流しにすれば良い、といった単純な話ではありません。

温泉ブームとともに現れた温泉マニアの人たちの間では、「源泉かけ流しが正しくて濾過循環は悪」といった考え方が広がりました。

確かに湧き立てで新鮮な温泉が最高であることは言うまでもないのですが、公衆浴場は多数の人が入れ代わり立ち代わり利用する場所です。溜めたお湯には入浴者の汚れが持ち込まれ、どんどん水質が悪化していきます。

公衆浴場法には、「循環ろ過装置は、1時間当たりで、浴槽の容量以上のろ過能力を有すること。」とあります。多くの温浴施設では、濾過設備に1時間あたり2回転以上させられるだけの能力を持たせています。

2m×2m×0.6mの浴槽があったとして、その浴槽容量は2.4tです。1時間1回転というのは、2.4tのお湯を循環させて濾過するということで、毎分に換算すると40リットルの量になります。2回転なら毎分80リットル。

数字だけでは分かりにくいかも知れませんが、普通の水道の蛇口を全開にした時に出てくる水の量が毎分20リットルくらいですから、2m四方の小さな浴槽に対して40リットルというのは、蛇口2本から勢いよく水が注がれている状態ということです。

そんな勢いでかけ流しにしている源泉かけ流し浴槽というのは、滅多に目にすることはありません。

意外なことですが、かけ流しの場合の新湯投入量については、濾過循環のような法的基準がないのです。

したがって、どのくらいの新湯を投入するかというのは、源泉の能力と、施設管理者の裁量まかせ。残留塩素濃度も含めて数値基準がないので、「適切に衛生状態を保ってください」という曖昧な世界なのです。

源泉の温度が低くてボイラーで加温する必要があったり、排水に下水道料金がかかるような場所であれば、大量にかけ流しをしようとすると莫大なコストがかかります。それを吸収できるだけの潤沢な利益があれば可能ですが、実際には難しいでしょう。

上記のように蛇口2本全開で毎分40リットルの新湯を投入すると、毎時2.4t。営業時間12時間×30日営業なら月に864tの排水量になります。

東京都の下水道料金(一般汚水345円/立米)で計算すると、下水道料金だけで約30万円。

ボイラーで20度ほど昇温していたら、燃料代は1t1度昇温あたり8円くらいかかりますから、8円×20度×864tで約14万円。

たった2m四方の小さなかけ流し浴槽の湯を、濾過循環の基準同様に1時間1回転以上入れ替えたら、それだけのコストがかかってしまう可能性があるのです。

というわけで、多くの場合は新湯は熱めにしてチョロチョロと入れて浴槽温度を保つ、という運用にならざるを得ません。それでも入浴者が少ない浴槽なら衛生面の問題は起きにくいのですが、入浴者が多ければ見る見る濁り、髪の毛や垢が漂う浴槽になってしまいかねないのです。

「源泉かけ流しが正しくて濾過循環は悪」といった考え方が広まってしまったことによって、何も知らない一般ユーザーは「ここの施設は源泉かけ流しじゃないのか」とガッカリする。それをプレッシャーに感じた浴場経営者は、環境条件が揃っていないにも関わらず無理に源泉かけ流し浴槽を導入して、今度はお湯が汚いと叱られる。

かけ流し信仰を煽った人たちも悪意はなかったのでしょうが、結果的には温浴業界にとっては風評被害としか言いようがない一連の流れだったと思います。

大切なのは、与えられた環境に応じて、最適な形で湯を提供することです。

それが…

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