風呂屋の特権

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今日は 2021年10月7日です。

風呂屋の特権

 温浴施設の運営をしていると、ネガティブな出来事に遭遇することがあります。

窃盗や無銭入浴といった明らかな犯罪事件はまだマシかも知れません。相手はこちらとまともに付き合うつもりがなく、初めから狙って悪事を働いているわけですから、お客様ではなく自社を脅かす敵です。怒っていいし、捕まえたら警察に突き出すだけ。話は単純です。

美味しい料理を好きなだけ食べていただこうと用意したブッフェで、わざとかのように食べきれない量を取り、テーブルに大量に残して帰る。

塩の美肌効果にびっくりしてもらおうと山盛りにしておいた塩を浴室にぶちまけたり、水をかけて全部台無しにする。

使い放題の贅沢感を味わってもらおうと用意したリネンやアメニティを、カバンに詰めて持ち帰る。

お客さまを喜ばせようとしてやっているつもりなのに、その気持ちが伝わらないどころか悪意が返ってきた時は、悲しくなりますし、そんなことが続くとやがてすべてが虚しくなってきます。

真剣に仕事に向かっている人ほど、思いが伝わらないことの辛さも大きいでしょう。

「世の中はどうせこんなもの」とつぶやいて、そんなサービスはやめてしまいたくなるでしょう。

もう二度と同じような思いはしたくないという気持ちが強くなり、事件をSNSに告発投稿したり、「食べ残したら罰金」「見つけたら警察に通報」といった厳しい言葉のメッセージを書いて貼り出そうと思うかも知れません。

しかし、それは思いとどまって欲しいのです。

仮に思いが伝わらず、善意を悪意で返すような人がいたとしても、それはたぶん100人に1人以下のことで、残りの99人のお客様は施設のサービスを喜び、楽しみにしてくれていると思います。

1%と99%のどちらに目を向けるべきかということです。

サービスを廃止してしまったら、99%のお客様が失望するでしょう。SNSで拡散したらネガティブな気分が世の中に無限に拡散されていきますし、そんな悪い客層が出入りする施設なんだという印象も与えかねません。厳しい文言のPOPを貼れば、善意のお客様までがそれを読んで叱られた気分になってしまうかも知れません。

後ろ向きになりそうな時は、初心を思い出して欲しいのです。なぜ風呂屋という仕事をはじめたのか。どうしてそのサービスを取り入れようと思ったのか。つまらない事件のせいで、それを諦めてしまう必要はないはずです。

どうしても悩んでしまう時は、その問題はいったん横に置いて、風呂に入りましょう。誰でもそうですが、仕事が辛い時にいろいろ考えすぎると、悪いことしか見えなくなり、正しい判断が下せなくなります。

風呂に入ればさっぱりするし、サウナで汗を流せば嫌な思いも流れ出て行きます。熱いサウナから冷たい水風呂という極限のストレスの前にはクヨクヨ悩んでいる場合ではなくなります。

気がつけば、また前を向くことができる。いつでも良い風呂に入れるのが風呂屋の特権なのです。

(望月)

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