お墨付きは要らない

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今日は 2021年3月26日です。

お墨付きは要らない
 いま、海の近くにある場所で、温浴施設開業準備のお手伝いをしているのですが、井戸を掘削したところ、かなりの塩分が含まれていることがわかりました。

これはガイベン・ヘルツベルグの法則といって、海沿いの地下水は淡水層が海水層の上に浮いた形で安定するという現象で、海岸近くの物件ではちょっと深く掘ると井戸水に塩分が含まれているというのはよくあることなのです。

掘る前から予測されていたことなのですが、この井戸水の成分分析を温泉審議会に届け出れば、天然温泉のお墨付きがもらえるのではないか?という議論になりました。

水1kg中に溶存物質量が1,000mg以上あり、陰イオンの主成分が塩化物イオンのものは、塩化物泉と呼ばれます。その井戸水は溶存物質1,000mgを軽く超えていましたので、天然温泉に該当することは間違いありません。

しかし、「それはやめたほうがいいと思います」と率直にお伝えしました。

最大の理由は、入湯税です。

その地域には既存の天然温泉がないため、自治体は入湯税の条例を定めていません。しかし、天然温泉の認定を受けた温浴施設が営業するとなれば、入湯税の課税が議論されることになるでしょう。場合によっては大人1人150円の重税が課されることになり、事業計画を抜本的に見直さなければならなくなります。

「天然温泉」の看板による集客効果と、入湯税の負担と、どちらが大きいかということです。仮に年間10万人に課税されたら、年間1500万円の税負担となります。その減収分を取り戻すためには、ざっくり言うと年間1億円くらいの増収が必要です。

そこまでの威力が天然温泉の看板にあるのか?と考えると疑問なのです。

逆に、天然温泉と謳っていなくても、入浴してみたら明らかにしょっぱくて、よく温まるといった入浴効果が実感できるなら、利用者はその施設のファンになってくれるのではないでしょうか。

看板に「天然温泉」という文字が入っているかどうかが重要なのではありません。

現代のように掘削技術が発達していなかった昔は、温泉に稀少価値がありました。「天然温泉」とは、わざわざ温泉地まで出向かなければ体験することのできない、有り難いものだったのです。

しかし、大深度掘削によって日本中どこでも天然温泉が湧出するようになって、しかもその温泉が加水や濾過循環塩素入りで提供されることが普通となって、稀少価値も薄まってしまったのです。

温度か成分で一定基準を満たしていれば、温泉法による天然温泉のお墨付きがもらえるのですが、お墨付きがあるということと、入浴してその良さが実感できることは決してイコールではありません。

成分分析表の数値よりも、その温泉が持つ本来の良さを最大限発揮できるよう大切に提供しているか、お湯のみならず総合的な入浴環境の品質向上にどれだけ取り組んでいるかといったことの方が重要なのです。

天然温泉の看板に甘えて、利用者満足の追求を怠るくらいなら、お墨付きなど要らないのです。

2014年頃から、機会あるごとに「温泉の純化、サウナの進化」ということを申し上げてきました。
http://blog.aqutpas.com/2014/09/post-0ba4.html

「成熟した温泉の世界では、より純粋で本質的な価値に目が向けられるようになる。一方サウナはこれから飛躍的に進化する」という予測であり、そうなるべきという提言でもあったのですが、サウナはその通りに進化してきたと思います。

しかし、温泉の純化は思ったほど進んでいません。2019年に純温泉協会が設立されるなどの動きがあり、そろそろ来るか?と思っているのですが、サウナに比べると勢いが足りないようです。

考えてみれば…

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