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今日は 2021年3月3日です。
◆6号線の天使
昨日、茨城県で温浴施設の開業を計画している会社をご訪問した帰り道、夕方まで少し時間があったので、さっそくメインの競合店になりそうな施設に立ち寄りました。
入浴しながら対抗する戦略をあれこれ考えている間にすっかり時間がたち、店を出ようとするとあいにくの雨。
タクシーを呼ぼうかとも思ったのですが、玄関先に路線バスの時刻表が貼ってあるのが目に留まり、確認すると施設からバス停までちょっと歩きますが、あと15分ほど待てば国道6号線沿いのバス停に駅まで行くバスが来るようだったので、少し時間を調整してからバス停に向かいました。
予定時刻の2分ほど前にバス停に着くように歩いていたところ、遠目に1台のバスが通りすぎて行くのが見えました。
雨の日のバスは遅れることが多いので、まさか先に行っちゃったってことはないよな？と思いながらバス停に到着し、雨の中しばらく予定のバスを待っていたのですが、全然来る様子がありません。
やはりさっきのが駅に行くバスだったのか…。茨城交通め、時刻表守れよ、と憤慨しながら次のバスの時間を確かめると、なんと次まで2時間以上も来ないことが判明。
仕方なく、冷たい雨の中傘もささずに、駅まで約3kmの道を歩くことにしました。
今考えれば施設に戻ってタクシーという方法もあったのですが、私は基本的に前向きなもので、後ろに戻るより前に進む道を選ぶのです。前に進むと、その先に何かがあるのかも知れませんから。
雨に濡れながら、しばらくトボトボと歩いていると、私を追い越した黒い車が停まり、若い女性が降りてこちらへ小走りに向かってきました。
その手に持ったビニール傘を差し出し、「良かったらこれ使ってください！バスを逃したみたいで気になっちゃって…」と爽やかに言うのです。
知らない街で、見ず知らずの若い女性からそんな親切を受けたことで気が動転してしまい、まだきちんとお礼も言えないでいるうちに彼女は踵を返し、車に戻ってしまいました。
マスク越しでしたが、たぶん美女だった気がします。サーモンピンクのセーターに黒のオーバーオールという若いファッションは、まだ免許取り立てくらいの年齢かも知れません。
走り去る車に向かって何度も頭を下げながら、その親切に感謝し、彼女の人間性に感動していました。天使だったのかも知れないと思いました。
と同時に、ここはなんて良い町なんだという思いが沸き上がってきました。さっきまで茨城交通め、とか言っていたのが、突如茨城県人は素晴らしい！に変わってしまったのです。
ありがたく貰ったビニール傘をさして駅まで歩きながら、自分に起きた出来事を考えました。
スペック、利便性、コスパ、キャンペーン。そんなものはひとつの心暖まる親切の前には、どうでもよいことのように思えてきます。
どうでもよいと言っては語弊がありますが、バスが2時間に1本だろうと、都道府県別魅力度ランキング最下位だろうと、私にとって茨城県は親切な天使がいるところというイメージに一変してしまったのです。(そういえば妻も茨城県育ちでしたが。)
損得勘定抜きの親切というのは、これほどまでに人を感動させるものなのか。これが湯らっくすの西生社長が言っていた「愛だけを残せ」という意味なのか。
https://www.yulax.info/topics/news/4650
もしこのような出来事が温浴施設のお客さまとスタッフの間で起きたら…。
そこまで考えた時に、リッツカールトンホテルの2000ドル決裁権を思い出しました。2000ドル決裁権というのは、最高のサービスを提供するために、リッツカールトンで働く全スタッフは、いつでもその場で2000ドル（約20万円）までの支出を決裁して良いという取り決めです。
2000ドルというのは大きな金額ですが、リッツカールトンの客単価を考えれば、お客さまが払う金額の4〜5倍程度の支出までOKという意味に置き換えても良いのかも知れません。
6号線の親切な天使は、車の中にビニール傘が置いてあったからこそ傘を差し出す行動をとることができたわけで、それと同じような準備とも言えます。
これまで、温浴施設のホスピタリティについてはいろいろな角度から考えてきたのですが、個別対応のための決裁権について言及したことはありませんでした。
お客さまが困っている時。あるいは怒っている時。直面する問題を解決してあげるために、スタッフが自らのホスピタリティマインドに基づいて、自らの判断で動けるようにするためには、傘を準備しておく必要があるということを教わりました。
それにしても、ただ呆然として傘を受け取ってしまったのは失敗でした。天使に御礼の連絡をすることも叶いません。返すことのできない借りをどうすればいいのでしょうか。
（望月）
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